平家物語|「AZUMANOTABIJI26」インスタレーションノート
『AZUMANOTABIJI26|SAKAI-01 MAKI』(2026)

東の旅路
平家物語「海道下(かいどうくだり)」および「千寿(せんじゅ)」を背景に、捕えられた平重衡が東国へ向かう旅路を見立てたインスタレーションです。
白は勝者である源氏の色であると同時に、裁きと浄化、そして空白を想起させる色でもあります。敗者である重衡の身体は、記憶を携えたまま東へと運ばれていきます。身に流れる平家の赤、身体を縛る源氏の白を、布と糸によって空間に表しました。

反物と糸




捕えられ、運ばれ、やがて消えていく身体。それでもなお残り続ける声と音。勝者の歴史の中に取りこぼされた、静かな時間。「東の旅路」は、平重衡の旅路を追体験するものでもあり、同時に、彼が通過していったあとの空白に立ち会うための装置でもあります。私は平重衡という人物像に、定められた死を前にしながら、なお雅と音を手放さない気高さを感じています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制作時期 | 2025年11月 |
| タイトル | AZUMANOTABIJI26 |
| シリーズ | SAKAI-01 MAKI |
| コンセプト | 裁きの中に生まれる空白。 勝者と敗者、白と赤。 |
| 素材 | 布・紐・その他 |
| 制作・演出 | 盛典(インスタレーション・撮影) |
| 語り | 盛典・雷伝(平家琵琶) |
あらすじ
― 海道下(かいどうくだり)
捕えられた平重衡は、鎌倉にいる源頼朝の命により、関東へと護送される。道中、四宮河原では、かつて蝉丸が琵琶を奏でたという旧跡に立ち、荒れた藁屋や古びた床を目にして往時を思い起こす。逢坂山を越え、志賀の浦の波、鏡山などの景を見ながら進み、浜名の橋を渡るころには、松の梢を抜ける風や入江の波音が旅の寂しさをいっそう深める。池田の宿に至った夜、重衡は熊野の娘である侍従のもとに宿を取る。侍従は、このような境遇にある中将がここにいることを不思議に思い感慨を歌に詠み、重衡もそれに応じて返歌をする。さらに旅を続け甲斐の白根山を望みながら、重衡は命を惜しむ心の薄れと、それでも今日まで生き長らえてきた身の運命について思いを巡らせる。こうして日を重ね、やがて鎌倉へ到着する。
― 千寿(せんじゅ)
重衡は頼朝と対面する。父清盛の歩みと一門の栄華を語りつつも、自らに定められた行く末を静かに受け入れた言葉と態度は、頼朝や居合わせた武士たちの心に深く残るものとなる。狩野介宗茂の取り計らいにより酒宴が開かれ、千寿の前という女性から音楽のもてなしを受ける。重衡が奏でる琵琶や朗詠は、東国の武士たちが抱いていた平家の印象とは異なる、雅やかな一面を示すものであった。やがて重衡の死を知った千寿の前は出家し、その後世の菩提を弔ったという。
平曲×インスタレーション

▲画面をクリックすると再生されます(音量にご注意ください)
時間|17分00秒
物語|平家物語巻第十『海道下』
詞章
手越を過ぎて行けば、北に遠ざかつて雪白き山あり。問へば甲斐の白根といふ。その時三位の中将落つる涙を押さへつつ「惜からぬいのちなれども今日までにつれなき甲斐の白根をもみつ」 清見が関うち越えて、富士の裾野になりぬれば、北には青山峨々として、松(吹く)風索々たり。南には蒼海漫々として、岸打つ波も茫々たり。恋せば痩せぬべし、恋せずともありけりと、明神の歌ひ始め給ひけん、足柄の山うち越えて、こゆる木の森、鞠子川、小磯大磯の浦々、やつまと、砥上原、御輿が崎をもうち過ぎて、急がぬ旅とは思へども、日数漸う重なれば、鎌倉へこそ入り給へ。

▲画面をクリックすると再生されます(音量にご注意ください)
時間|17分14秒
物語|平家物語巻第十『千寿』
詞章
十悪といへどもなほ引摂すといふ朗詠をして、極楽願はん人は皆弥陀の名号を唱ふべしといふ今様を、四五返うたひ澄ましたりければ、その時三位の中将盃を傾けらる、千寿の前賜はつて狩野の介に差す、宗茂が飲むとき琴をぞ弾澄したる、三位の中将この楽をば普通には五常楽といへども、今重衡が為には後生楽とこそ観ずべけれ、やがて往生の急を弾んと戯れ琵琶を取り、転手を捩ぢて、皇麞の急をぞ弾かれける、更行ままに万心もすみければ、あな思はずや吾妻にもかかる優なる人のありけるよ、夫れ何事にてもあれ今一声と宣へば、千寿の前重ねて一樹の陰に宿りあひ同じ流れを結ぶも、皆是前世の契りといふ白拍子を、誠に面白ふかぞへたりければ、三位の中将も燈暗ふしては数行虞氏が涙といふ朗詠をぞせられける。
