平家物語|「GIONSHOJA25」インスタレーションノート

GIONSHOJA25|SAKAI-03 TAGGING
語りの声は、文字に現れてこの世を漂う。
言葉の痕跡=Traces of Voicesを可視化したインスタレーション。

『GIONSHOJA25|SAKAI-03 TAGGING』(2025)
盛典のインスタレーション・スタイル―SAKAI「境」。
03シリーズでは、平家物語に登場する人物や印象的な場面を、文字で描いています。『祇園精舎』は、平家物語巻第一の冒頭に記された物語。このインスタレーションでは、無機質で現代的なビニールに、祇園精舎の一節をマーカーで書き表しました。この筆跡は、平曲の節を映すと同時に、私自身の呼吸や間の記録でもあります。声から文字へ、過去から今へ。祇園精舎を朗詠することはまだ叶いませんが、この言葉を背景に様々な諸行無常の物語を語っています。
祇園精舎の両側に配置されたビニールは、「泡・飛沫・命・電波」を象徴する信号のような役割を果たしています。ポリエチレンの手触りや、気泡ひとつひとつの感触を、梱包用途ではなくインスタレーションの装置として用いることで、古典の中に新しい意味が立ち上がるように感じています。
TAGGING(タギング)について
タギングとは、もともとストリートアートの文脈で使われる言葉で、自らのサインや文字を描く行為を指します。速い筆致や即興性、身体の動きがそのまま痕跡として残る表現です。一方で、デジタルの領域では「情報にタグを付ける」「分類する」といった用法もあります。ここでは、その“刻む”という感覚を拡張し、平家物語の語りや声を、文字として空間に刻む行為として扱っています。




| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制作時期 | 2025年10月 |
| タイトル | GIONSHOJA25 |
| シリーズ | SAKAI-03 TAGGING |
| コンセプト | 言葉の痕跡=Traces of Voices ビニールに平家物語をタギングし、声の痕跡や物語の軌跡を空間に刻む。 |
| 素材 | ポリエチレンシート・油性マーカー |
| 制作・演出 | 盛典(文字・インスタレーション・撮影) |
| 語り | 盛典・雷伝(平家琵琶) |
平家琵琶|インスタレーション×パフォーマンス
インスタレーション|SAKAI-03 TAGGING GIONSHOJA25
物語|平家物語巻第十一「嗣信最期(つぎのぶさいご)」
撮影|2025年10月
制作・撮影・編集・演奏|盛典(もりのり)
▶平家物語現代語訳「嗣信最期」
詞章
判官も嗣信を陣の後ろへ舁き入れさせ急ぎ馬より飛んで下り手を取つて「いかが覚ゆる三郎兵衛」息の下にて「今はかうと覚え候」「思ひ置く事はなきか」と宣へば「別に何事をか思ひ置き候ふべき、さは候へども君の御世に渡らせ給はんを見参らせずして死に候ふ事こそ心に懸かり候へ、さ候はでは弓矢取る身は敵の矢に当たつて死ぬる事は兼ねてより期するところでこそ候へ。なかんづく奥州の佐藤三郎兵衛嗣信と云ひけんもの、源平の合戦のとき讃岐国八島の磯にて主の御命に代はつて討たれたりなんど、末代までの物語に申されん事今生の面目冥土の思ひ出にてこそ候へ」とてただ弱りにぞ弱りにける。判官もあわれに覚えて鎧の袖をぞ濡らされける。ややあつて「もしこの辺に尊き僧やある」とて尋ね出し「手負の只今死に候ふを一日経書ひて弔ひ給へ」とて黒き馬の太う逞しきによい鞍置いて、かの僧に賜びにける。
インスタレーション|SAKAI-03 TAGGING GIONSHOJA25
物語|平家物語巻第十一「那須与市(なすよいち)」「弓流(ゆみながし)
撮影|2025年10月
制作・撮影・編集・演奏|盛典(もりのり)
那須与市の後半から弓流し冒頭を語っています。
▶平家物語現代語訳「那須与市」
詞章
与市鏑を取つてつがひよつ引いてひやうと放つ小兵といふ条十二束三伏、弓は強し鏑は浦響くほどに長鳴りして過たず扇の要際一寸ばかり置いてひいふつとぞ射切つたる。鏑は海に入りければ扇は空へぞ揚がりける。春風に一揉み二揉み揉まれて海へさつとぞ散つたりける。皆紅の扇の日出だいたるが夕日に輝いて白波の上に浮きぬ沈みぬ揺られけるを沖には平家舷を叩いて感じたり陸には源氏箙を叩いてどよめきけり。(ここから弓流)感に堪へずと思しくて、舟の中より年の齢五十ばかんなる男の黒糸威の鎧着たるが白柄の長刀杖につき扇立てたる所に立ちて舞ひしめたり。伊勢三郎義盛与一が後ろに歩ませ寄せて「御諚であるぞこれをもまた仕れ」と云ひければ、与一今度は中差を取つてつがひ、舞ひ澄ましたる男の真只中をひやうつばと射て舟底へ真倒に射倒す。
インスタレーション|SAKAI-03 TAGGING GIONSHOJA25
物語|平家物語巻第十一「弓流(ゆみながし)」
撮影|2025年10月
制作・撮影・編集・演奏|盛典(もりのり)
前の物語-那須与市の最後から弓流し冒頭を語っています。
▶平家物語現代語訳「弓流」
詞章
感に堪へずと思しくて、舟の中より年の齢五十ばかんなる男の黒糸威の鎧着たるが白柄の長刀杖につき扇立てたる所に立ちて舞ひしめたり。伊勢三郎義盛与一が後ろに歩ませ寄せて「御諚であるぞこれをもまた仕れ」と云ひければ、与一今度は中差を取つてつがひ、舞ひ澄ましたる男の真只中をひやうつばと射て舟底へ真倒に射倒す。
