
下関AIR75滞在と演奏会のご報告
2025年3月、私たちはアーティスト・イン・レジデンスプログラムで下関のAIR75に滞在し、3月15日・16日に、平家琵琶で聞く平家物語『最期の海、壇ノ浦。』下関版の演奏会を開催いたしました。
滞在中、壇之浦や彦島を辿りながら目にした風景は、演奏の構成に大きなインスピレーションを与えてくれました。


滞在先の長府からバスに揺られて海が見えたとき涙が溢れました。海を見ただけで込み上げてくるものがある不思議な体験をしながら、バスを降りて平家の一杯水から壇之浦古戦場へと歩いていると、自然と口をついて出たのは平曲『先帝御入水』の最後の語りでした。
雲上の龍下つて海底の魚と成り給ふ
大梵高台の閣の上釈提喜見の宮の内
古は槐門棘路の間に九族を靡かし
今は船の内波の下にて御身を一時に滅ぼし給ふこそ悲しけれ
この時の体験を元に、下関版の演奏会では、『先帝御入水』の最後の部分を、冒頭の導入として構成しました。

赤間神宮はまるで竜宮城のような佇まいでした。耳なし芳一に手を合わせ、念願の平家塚へ足を踏み入れたとき、嬉しさで全身の毛穴が開きました。ここにずっと居たい、離れたくない、それほど私にとって心地のよい場所でした。ろうそくを灯し、左右に移動しながら手を合わせ、後ろ髪を引かれる思いで平家塚を後にしました。

その後、平知盛が拠点としたと伝わる彦島へ。下関駅のレンタサイクルで向かいました。駐輪場の方がとても親切に彦島への行き方を教えてくださったおかげで、無事に水門を渡り、清盛塚、西楽寺、きぬかけ岩等を巡ることができました。印象的だったのは、それぞれの場所に寄り添うように藪椿があったこと。ちょうど落花の季節で、紅色が心に残りました。

今回の演奏会は90分、終演毎に私は発熱、雷伝は絃が切れました。ふたりで大きな負荷(必要な負荷)をかけて行った演奏は、多くの学びを得ることができました。また、お客様とお話できたことも励みとなりました。

滞在の終わりには、赤間神宮の平家塚の前で奉納演奏の機会を賜りました。滞在の初めにひとりで訪れた平家塚に、ふたりで訪れることができたのは、感慨深い出来事でした。特別な機会を設けてくださった赤間神宮の関係各位の皆様に、心より御礼申し上げます。
今回の貴重な経験を胸に、今後も学びを深め、また下関の地を再訪したいと願っています。ご来場くださった皆様、お声がけくださった皆様、そしてarte75の皆様、この度はありがとうございました。