平維盛|平家物語巻第七『維盛都落』現代語訳あらすじ

平曲|維盛都落(これもりみやこおち)

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時間|5分52秒
物語|平家物語巻第七『維盛都落』
詞章
御弟新三位の中将資盛、左の中将清経、同じき少将有盛、丹後の侍従忠房、備中の守師盛、兄弟五騎馬に乗りながら門の内へうち入れさせ庭に控へ大音聲をあげて「行幸は早遥かに延びさせ給ひぬらんにいかにや今までの遅参候ふ」と声々に申されたりければ、三位の中将馬に乗りながら既に出んとし給ふが、また引返し縁の際にうち寄せ弓の弭にて御簾をざつと掻き上げて「あれ御覧候へ幼き者共があまりに慕ひ候ふを兎角こしらへ置かんと仕るほどに、存の外の遅参候ふ」と宣ひも敢へずはらはらと泣き給へば、庭に控へ給へる一門の人々も皆鎧の袖をぞ濡らされける。ここに三位の中将の年来の侍に斎藤五斎藤六とて兄は十九弟は十七になる侍あり。
平家物語巻第七『維盛都落』現代語訳あらすじ

※平曲の譜面『維盛都落』から書き起こした文章を現代語訳にしています
なかでも小松三位中将維盛は、以前から覚悟していたこととはいえこの時に及んで悲しみはひとしおであった。維盛の北の方は故中御門新大納言成親の娘で、父にも母にも先立たれ身寄りのない孤児であった。桃の花のような顔立ちは露にほころび、紅をさした眼差しには媚があり、柳のような黒髪は風に乱れ、これほどの姿の人はほかにあるまいと思われるほどであった。二人の間には六代御前と呼ばれる十歳の若君とその妹で八歳の姫君がいる。子らもそれぞれ別れまいとすがり泣くので三位中将は言った「前々から申してきたとおり、自分は一門とともに西国へ落ちてゆく。道中には敵が待ち構えていようから、無事に通れるかどうかも定かではない。たとえ自分が討たれたと聞いても、決して出家などしてはならない。そのときは誰なりとも人目に触れさせ、あの幼い者たちを育ててほしい。情をかけてくれる親しい人がいなければならぬのだから。」こうして慰め語ったが、北の方は返事をすることもなかった。
中将がいよいよ立とうとすると、北の方は袂にすがりついた「都には父もなく母もなく、捨てられた身となったあとはいったい誰に顔を見せればよいのでしょう。どのような人にでも見せよとおっしゃるのがあまりにも恨めしい。前世からの契りがあったからこそ、人は憐れみをかけてくれるのではありませんか。人ごとに情をかけてくれるものではありません。どこまでもお供し同じ野の露と消え、同じ底の水屑となろうと誓ったではありませんか。それなのに小夜の寝覚めに交わした睦言もすべて偽りとなってしまいました。せめて身ひとつならばともかく捨てられるこの身のつらさを思えばここに留まりたい。ではあの幼い者たちを誰に託し、どうなさるおつもりなのですか。」こうして、恨みまた慕いながら必死に引き留めた。
三位中将は答えた「そなたは十三私は十五のときに見初め、火の中水の底へも共に入り、限りある別れ道に至るまで後れ先立たぬと誓った。しかし今日このような苦しい有様で軍の陣へ連れてゆけば、行方も知れぬ旅の空でつらい思いをさせることになろう。それはわが身ながら忍びない。今はまだ何の用意もないが、どこかの浦に落ち着けるようになったならそのとき迎えに人を遣わそう。」そう言い切って立ち上がり、中門の廊に出て鎧を着け馬を引き寄せ、今まさに乗ろうとしたとき、若君と姫君が走り出て父の鎧の袖や草摺に取りすがった。どこへ行くのか、自分たちも連れて行ってほしいと慕い泣く姿に、憂き世の絆を思い三位中将は心を定めかねる様子であった。
そこへ弟の新三位中将資盛、左中将清経、少将有盛、丹後侍従忠房、備中守師盛ら兄弟五騎が、馬に乗ったまま門内に入り庭に控えて大声を上げた。「行幸の列は遥か先へ行っています。なぜこれほど遅れるのですか」その声に三位中将は馬に乗ったまま出ようとしたが、再び引き返し縁先に寄って弓の弭で御簾をざっとかき上げた。「これを見てくれ。子供たちがあまりに慕うのでなだめるうちに遅れてしまったのだ」そう言いながら言葉も続かず、はらはらと涙を落としたので庭に控えていた一門の人々も、皆鎧の袖を濡らした。
ここに三位中将に長年仕えてきた斎藤五、斎藤六という兄弟の侍がいた。兄は十九、弟は十七である。二人は中将の馬の左右に取りつき、涙を流して言った「どこまでもお供いたします」。すると三位中将は言った「そなたたちの父、長井の斎藤別当実盛が北国へ下ったとき、供をして慕い従ったことはよく知っている。しかし実盛が北国で討死したのは、年老いた身でそうなることをあらかじめ悟っていたからだ。だが今六代を都に残してゆくのに心安く扶持できる者がいない。ただ道理を曲げてでもここに留まれ」こう言われ、二人は力及ばず、涙を押さえて留まった。
北の方は「これほど情けのない人だとは思わなかった」と衣を被って打ち伏した。若君、姫君、女房たちは御簾の外へ転び出て倒れ伏し声を限りに泣き叫んだ。その声々は三位中将の耳の底に残り、西海に立つ波吹く風の音までもその声が混じって聞こえるように思われた。
こうして平家は都を落ちる。六波羅、池殿、小松殿、八条、西八条をはじめ、人々の邸宅二十余か所、さらには白河の京中、四、五万軒の民家にまで火を放ち、一度にすべて焼き払ったのである。
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