長谷部信連|平家物語巻第四『信連合戦』現代語訳あらすじ

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平家物語巻第四『信連合戦』簡単なあらすじ
三位入道からの使者が宮(以仁王)のもとを訪れ、謀反が発覚し土佐への流罪が決まったことを告げた。混乱する宮に対し、侍の長谷部信連は女装しての脱出を進言し、宮は従者たちとともに三井寺へと向かった。御所に残った信連は、宮の大切な笛を届けた後、御所へ引き返して単身で敵と戦った。見事な武芸で多くの敵を討ち取ったものの、最後は力尽きて生け捕りとなった。六波羅での取り調べにおいて、信連は毅然とした態度を貫き、最後まで宮の行方を明かすことはなかった。その武勇と忠義は平家の武将たちからも称賛された。

平家物語巻第四『信連合戦』現代語訳全文
※平曲の譜面『信連合戦』から書き起こした文章を現代語訳にしています

宮(以仁王)は皐月十五夜の雲間に浮かぶ月を眺めていたところ、三位入道(源頼政)の使者が、急ぎ文を携えて現れた。宮の乳母子である六条の亮大夫宗信がこれを受け取り、急ぎ御前に参じて開いてみると、そこには次のように記されていた。「君の御謀反の企てはすでに明らかとなりました。土佐の畑へ流罪とするため、六波羅より官人たちが別当宣を受け、ただ今お迎えに参上いたします。速やかに御所を出て三井寺へ落ち延びられますように。入道もすぐに参ります。」この文を見た宮は、事態の急変に驚かれた。

宮はこの事態をどうすべきかと悩み、大いに心を乱して騒がれた。当時、宮の侍の中に長兵衛の尉、長谷部信連(はせべのぶつら)という者がいた。御前に控えていた信連が進み出て、「今は策を巡らす余裕もございません。女房の装束でお出になり、ただちに御所をお発ちください」と進言したので、宮はこれをもっともなことと受け入れ、御髪を乱し、重ね着した衣をまとい、市女笠をかぶられた。

乳母子の六条の亮大夫宗信が傘を持ち御供を務め、鶴丸という童が袋に物を詰めて背負った。まるで青侍が女を迎えて連れ出すような様子で宮を送り出し、高倉の北へと落ち延びていった。道中大きな溝があったが、宮はそれを軽々と飛び越えられた。すると通りすがりの人々がその様子を見て立ち止まり、「なんとも大胆な女房の溝の越え方よ」と怪しげに見つめた。宮はそれを察し足早にその場を通り過ぎられた。

長兵衛の尉信連は御所の留守を守るよう命じられた。女房たちのうち少数をあちらこちらに隠れさせ、見苦しいものがないか見回っていたところ、宮が大切にされていた小枝という御笛を、御枕元に置き忘れていらっしゃるのを見つけた。宮もこれを取り戻したいとお思いになるだろうと、信連は五町ほど先まで追いかけて笛を差し出した。

宮は深く感激され、「私が死んだら、この笛を棺に入れてほしい」とおっしゃった。そしてそのまま信連にも同行を命じられたが、信連は「君の謀反が既に発覚し、土佐の畑へ流罪にするため、六波羅から官人たちが今まさにお迎えに参ると聞いております。このような時に御所に誰一人も留まる者がいないのは、あまりにも残念に存じます。この御所に信連がいることは、身分の上下を問わず誰もが知ることです。今夜ここを去れば、必ず逃げ出したと言われましょう。弓矢を取る身として、名誉を失うわけにはまいりません。官人どもと一戦を交え、一方を打ち破ってから、すぐに参上いたしましょう」と申し上げて、ただ一人御所へと引き返していった。

信連はその夜、薄青色の狩衣の下に萌黄色の腹巻を着て、衛府の太刀を腰に差していた。三条面の大門と高倉面の小門の両方を開けて、敵を迎え撃つ構えで待ち構えていた。案の定、六波羅から源大夫判官兼綱と出羽判官光長が、重装備の武士三百余騎を率いて、十五日の夜の子の刻に宮の御所へ向かってきた。源大夫判官兼綱は何か考えがあるようで、遠く門の外に控えていた。一方、出羽判官光長は馬に乗ったまま門の中に入り、庭に控えて大音声で告げた。「宮のご謀反がすでに明るみに出ました。六波羅より別当宣を受け、宮を土佐の畑へ遷すよう命じられました。ただいま、その迎えに参りました。速やかに御所を出られますように」

これに対し、信連は大床の上に立ち、「ただいま御所には宮はおられません。御物詣でに出向かれております。何事か詳しくお話しいただきたい」と応じた。すると出羽判官光長は、「他のどこへお移りになれるというのか。この御所以外に行かれるはずがないではないか。それならば、下部たちを入れて捜索させよ」と命じた。

信連は重ねて言った。「なんと愚かしいことを言う官人どもか。馬に乗ったまま門内へ踏み込むことすら不敬であるのに、ましてや下部どもを差し向けて御所を探せとは、なんたる無礼。ここには長兵衛の尉、長谷部信連がいるぞ。近寄るな、過ちを犯すな!」

庁中に金武という大力の剛の者がいた。彼は萌黄匂の腹巻をまとい、三枚甲の緒を締め、打物の鞘を外して信連を睨みつけると、大床の上へ跳び上がった。それを見て、同じく従う者十四五人が次々と続いた。信連は狩衣の帯紐を引きちぎり、捨てると同時に太刀を抜いた。これは衛府の太刀ではあったが、彼の手になじむよう特別に作らせたものだった。信連はこれを振りかざし、猛然と立ち向かった。敵は大太刀や大長刀を振るって応戦したが、信連の太刀のあまりの鋭さに圧倒され、嵐に舞う木の葉のように庭へと散り乱れた。

皐月十五夜、雲間から月が姿を現し、あたりを明るく照らした。敵は地理に不案内であったが、信連はよく知る場所であったため、あそこの面廊に追い詰めては一太刀、こちらの詰まりで逃げ場を塞いでは一閃と、次々に敵を斬り伏せた。「宣旨の御使に対して何たる狼藉か!」と敵が叫ぶと、信連は「宣旨とは何だ!」と言い返しながら太刀を振るった。敵は跳び退き、態勢を立て直そうとしたが、信連は押し戻し、踏み込みながら、瞬く間に優れた者十四五人を斬り伏せた。

しかしその後、太刀の先が三寸ほど折れ、地に捨てた。いよいよ腹を切ろうと腰に手をやったが、鞘が戦いの中で落ちてしまい、見当たらなかった。力尽きた信連は大手を広げ、高倉面の小門から飛び出そうとした。その時、大長刀を構えた男が一人、待ち構えていた。信連はその長刀に乗るようにして飛びかかろうとしたが、わずかに失敗し、股を縫うように貫かれてしまった。それでもなお気力を奮い立たせて進もうとしたが、ついには大勢の敵に囲まれ、ついに生け捕られてしまった。

その後、御所中を探し回ったが、宮の姿はどこにもなかった。結局、捕らえたのは信連ただ一人であり、六波羅へと連行された。前の右大将宗盛(平宗盛)は、大床に立ち、信連を大庭に引き据えさせると「なんと無礼なことか。宣旨の御使と名乗る者を、宣旨とは何かと言って斬ったというのか。その上、庁の下部たちにまで刃傷を負わせ、多くを殺害したとなれば、厳しく取り調べ、事の次第を問い質した上で、河原に引き出し首を刎ねよ」と言った。

しかし、信連はもとより屈強な豪の者であったため、居直って微塵も動揺せず、悪びれる様子もなく、あざ笑いながら「近頃、あの御所を夜ごとに窺う者どもがおり、何か事が起こるはずもないと侮って、特に用心しておらなんだところへ、夜半ばかりに鎧をまとった二三百騎ほどの者たちが押し入ってきた。何事かと尋ねたところ、宣旨の御使と名乗るのである。今の世には、諸国に盗賊や強盗、山賊や海賊どもがはびこり、時には君達の名を騙って入り込み、または宣旨の御使などと偽ることもあると聞いていたゆえ、『宣旨とは何か』と言って斬ったまでのこと。それに、もし私が思うままに武具を整え、良き鉄の太刀を持っておったならば、今ここにいる官人どもを、一人として無事に帰すことはなかったであろう」

さらに、宮の御在所がどこへ移られたのかも知らぬと答え、「たとえ知っていたとしても、武士として一度決めたことを口にするはずもなく、取り調べに応じて申し上げることなどありえぬ」と言い放った。その後は、何を問い詰められても、一言も発することはなかった。この様子を見ていた多くの平家の武士たちは、「あっぱれ、剛の者よ。こういう者こそ、一人で千人に匹敵する兵というべきだ」と口々に称賛した。

その中の一人がこう言った。「あれの高名は今に始まったことではない。先年、所司を務めていたとき、大番衆の者たちでさえ手をこまねいていた凶悪な強盗六人に、ただ一人で追いつき、二条の猪熊のあたりで四人を討ち取り、二人を生け捕りにした。その功績で左兵衛の尉に任ぜられたほどの男だ。そんな者が、今まさに斬られようとしているとは、なんとも無念なことよ」

これを聞いた入道相国(平清盛)はどう思ったのか、「ならば斬るには及ばぬ」と言い、信連を伯耆国の日野へ流罪とした。その後、平家が滅び源氏の世となると、信連は鎌倉へ下り梶原平三景時に仕えて、これまでの経緯を詳しく語った。鎌倉殿(源頼朝)はこれを「神妙なる振る舞い」と感じ入り、信連に能登国の所領を与えたという。


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